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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6816号 判決

参加原告 ヒルズ ペットプロダクツ インコーポレーテッド

右代表者 ゲイリー・デイ・ハリソン

右訴訟代理人弁護士 原増司

同 福田親男

同 鈴木修

右輔佐人弁理士 島田富美子

参加被告 中央ペットフード株式会社

右代表者代表取締役 新井原博

右訴訟代理人弁護士 吉武賢次

同 神谷巖

主文

一  参加被告は、別紙標章目録(一)、(二)記載の各標章をドッグフードの包装に付し、又は右各標章を付した別紙物件目録(一)、(二)記載の各商品を譲渡し、若しくは譲渡のために展示してはならない。

二  参加被告は、第一項記載の各標章を付した各商品の包装を廃棄せよ。

三  訴訟費用は、参加被告の負担とする。

四  この裁判は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(参加原告)

主文第一項ないし第三項と同旨の判決及び第一項、第二項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(参加被告)

1  参加原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、参加原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  参加原告は、左記商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

出願日 昭和五二年四月一一日

公告日 昭和五六年三月一九日

登録日 昭和五七年六月二九日

登録番号 第一五二一九五七号

登録商標 別紙商標目録記載のとおり

指定商品 第三三類飼料

2  参加被告は、昭和六〇年四月ころから、別紙標章目録(一)及び(二)記載の各標章(以下、「参加被告標章(一)」又は「参加被告標章(二)」といい、右両者と本件標章とをまとめて「両標章」ということがある。)をドッグフードの包装に付して(その形態は別紙物件目録(一)、(二)記載のとおりである。)、右ドッグフードを販売し、また販売のため展示している。

3  参加被告標章(一)、(二)は、次のとおり本件商標と類似する。

(一) 本件両標章の要部について

本件商標及び参加被告標章(一)、(二)は、いずれも造語であって、それぞれ特定の意味を有する熟語ではないし、両標章に共通な「DIET」(ダイエット)なる単語は、一般的日本人の理解によれば、「やせる食事法」といった程度のもので、指定商品そのものを表わすことはないから、本件商標中から「SCIENCE」の部分のみを分離して、それぞれ参加被告標章(一)、(二)の「SUNACE」、「サンエース」と対比しなければならない必要性はない。しかも両標章は、その長さにおいて冗長とはいえず、ほぼ同一の長さでもあるから、それぞれの全体を一連の語として対比すべきである。

(二) 外観について(本件商標と参加被告標章(一))

本件商標は、「SCIENCE」と「DIET」という、他方参加被告標章(一)は「SUN-ACE」と「DIET」といういずれも二つの西欧文字単語を、それぞれ一行に横書して構成されており、その外観を比較すると、

本件商標は、合計一一文字から成るのに対し、参加被告標章(一)は、合計一〇文字から成り、その文字数においてほぼ等しいうえ、本件商標の第三文字目の「I」は、殆ど幅を取らないため、同商標の全体の幅は、ほぼ一〇文字分に過ぎない。

両標章の第一文字は、ともに「S」であり、また、末尾の六文字も全く同一である。本件商標の第五文字目と参加被告標章(一)の第三文字目も、いずれも「N」で共通している。

したがって参加被告標章(一)は本件商標と外観上類似する。

(三) 称呼について(本件商標と参加被告標章(一)、(二))

本件商標からは「サイエンスダイエット」なる称呼が生じ、他方参加被告標章(一)、(二)からは「サンエースダイエット」なる称呼が生ずるので、その称呼を対比すると、

両標章の称呼は、いずれも合計一〇音節で構成され、内各第二、第四音が互いに相違するのみで、その余の各八音を全く共通にするのみならず、右相違する音も、第二音が「イ」(本件商標)と「ン」(参加被告標章(一))、第四音が「ン」(本件商標)と「エ」(エの長音部、参加被告標章(一))であり、これらはいずれも弱音で、しかもいずれの標章においても第二音は「サ」、第四音は「エ」というどちらも比較的強い音にそれぞれ続いている。以上のような両標章を一連に発音した場合、両者の相違は殆ど聞き取れない。

したがって、両標章は、その称呼において類似する。

(四) 観念について(本件商標と参加被告標章(一)、(二))

本件商標及び参加被告標章(一)、(二)とも特定の意味を有しないから本件において、両者の観念についての類否を論じることには意味がない。即ち、本件商標の「SCIEN-CE」から「科学」、「DIET」から「やせる食事法」という意味を抽出しても全体として特定の観念を生じない。一方、参加被告標章(一)、(二)も全体として特定の意味を有するものでないのみならず、その構成部分たる「SUNACE」ないし「サンエース」もまた造語であって特定の観念を生じないものだからである。

4  前項記載の参加被告標章(一)、(二)が付されている参加被告の商品であるドッグフードは、本件商標に係る指定商品の範囲に属する。

5  したがって、前記2記載の参加被告の行為は、参加原告の本件商標権を侵害する。

6  よって、参加原告は、参加被告に対し、商標法三六条一項、二項に基づき、請求の趣旨記載のとおりの参加被告標章(一)、(二)の使用等の差止と同標章を付した商品包装の廃棄を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2及び4の事実はいずれも認める。

2  同3、5の事実はいずれも否認する。

三  参加被告の主張

1  参加被告標章(一)、(二)は、次のとおり、その外観、称呼、観念のいずれにおいても本件商標に類似しない。

(一) 両標章の要部について

本件商標を構成する文字中「DIET」の部分は、「食物」、「飼料」等の意味を有する単語であり、これは本件商標の指定商品そのものを表すから、本件商標の要部足り得ず、本件商標の要部は「SCIENCE」の部分に存する。

参加被告標章(一)、(二)の各要部についても、右と同様のことがいえるから、両標章の類似性の判断にあたっては、本件商標の要部である「SUNACE」と参加被告標章(一)、(二)の各要部である「SUNACE」、「サンエース」とを対比すれば足る。

(二) 外観について

本件商標の要部の外観「SCIENCE」と参加被告標章(二)の要部の外観「サンエース」とが異なることは明らかである。

また、本件商標の要部の外観と参加被告標章(一)の要部の外観「SUNACE」とは、全体の文字数、「I」「U」「A」の各文字の有無、「C」「E」の各文字の個数において相違し、看者をして外観上誤認混同を生じさせるおそれはない。

(三) 称呼について

本件商標の前記要部から生ずる称呼は「サイエンス」であるが、そのアクセントは頭音である「サ」の音にあり、同音は、歯音である子音と顎角を最も多く開く明るい母音である「ア」の組み合わせられた音である。他方、参加被告標章(一)、(二)の要部から生ずる称呼は「サンエース」であるが、そのアクセントは中央の「エ」の音にあり、同音は、さほど顎角を開かず、暗い音質を有する。

右の如く、比較的短い称呼において二音も相違し、アクセントの位置、その存する音質がそれぞれ異なる場合は、両称呼は、互に語調を異にし、非類似というべきである。

(四) 観念について

本件商標の要部からは「科学」の観念が生じ、他方、被告標章(一)、(二)の要部は、「太陽」を意味する「SUN」、「サン」及び「最上」を意味する「ACE」、「エース」との各組み合わせであって、両標章の観念は容易に把握でき、しかも全く相違する。そしてこのように両標章の観念の相違が容易に把握できる場合には、両標章の称呼の差異をも、ますます際立たせる。

2  本件商標の登録には無効原因があるから、その類似範囲は最も狭く解すべきところ、参加被告標章(一)、(二)は右類似の範囲外にある。

すなわち、

(一) 本件商標の「SCIENCE DIET」なる語は、「栄養的効果を目的として科学的に処分、調合した食物(飼料)」の意味を有し、従って、同商標の指定商品である第三三類の飼料の品質・内容を表わすものであって、商標法三条一項三号の規定に該当するから、本件商標には登録無効原因が存する。

なお、本件商標を構成する「SCIENCE」、「DIET」なる語は、いずれも名詞であって、前者は、それ自体としては形容詞としての意味、機能はないが、「SCIENCE DIET」なる熟語はないから、名詞を二つ並べて前者の名詞を後者の名詞に対して形容詞的に用いるという、往々利用される表現方法の一場合であると考えられる。

(二) このような登録無効原因を有する商標においては、その権利範囲すなわち禁止権の及ぶ領域は、一般の有効な商標権についての類似範囲よりも格段に狭く、出願したとおりの構成を一字一画違わない、完全に同一の構成を有する商標にのみ及ぶと解すべきである。

ところで参加被告標章(一)、(二)は、その構成において本件商標の構成と一字一画まで同一でないことは明らかであるから、本件商標の類似性の範囲外にある。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで請求原因3(本件商標と参加被告標章(一)、(二)の類否)について判断する。

1  対比

(一)  両標章の要部について

本件商標及び参加被告標章はともに造語であって、それ自体特定の観念を生ぜず、かつ、いずれも全体として五音節の短い外来語をもって構成されている点からみて、いずれの標章についても、視覚上、聴覚上それを分離して覚知されることはなく、これを一体のものとしてみることが自然であるから、本件商標及び参加被告標章の一部を取り出してそれを要部として相互に比較する必要はなく、右両者は全体として比較されるべきものである。

(二)  称呼について

本件商標から「サイエンス ダイエット」なる称呼が、他方参加被告標章(一)、(二)からは「サンエース ダイエット」なる称呼が生ずることは明らかである。

ところで、右各標章のうち右「サイエンス」と「サンエース」とは、いずれも五音節からなり、語頭及び語尾並びに第三音を共通にしており、異なる音である第二音の「イ」(本件標章)及び「ン」(参加被告標章(一)、(二))、第四音の「ン」(本件標章)と「(エ)ー(エの長音部分)」(参加被告標章(一)、(二))は、いずれもアクセントのない弱音であって、両者の相違は必ずしもきわだったものではなく、したがって両者の称呼は互いに類似しているものと解せられる。

のみならず、右「サイエンス」及び「サンエース」に「ダイエット」を続けてそれぞれ一連に発音した場合、相互の紛わしさは、より大きくなることは明らかであるから、両標章は、称呼において類似するというべきである。

(三)  外観について

次に本件商標と参加被告標章(一)のそれぞれの外観を対比すると、前者が一一文字から成るのに対し、後者は一〇文字から成り、ほぼ等しいこと、また、双方の文字構成についても八文字を共通にし、第一文字はともに「S」であり、双方の後半六文字は全く共通であること、前者の第五文字目と後者の第三文字目は共に「N」であることが認められる。

したがって、本件商標と参加被告標章(一)とは外観上類似するものということができる。

(四)  観念について

本件商標は、造語であって特定の意味を有しない。また参加被告標章(一)の「SUN-ACE」同(二)の「サンエース」の語から意味のある特定の観念が生ずるものとは認められない。したがって本件において、両標章の観念の類否を比較することは、無意味である。

(五)  以上によれば、本件商標と参加被告標章(一)、(二)は、称呼において類似し、また本件商標と参加被告標章(一)とは外観においても類似することにより全体としても、相互に類似すると解すべきである。

2  本件商標の効力の及ぶ範囲

参加被告は、本件商標には、商標法三条一項三号の規定に該当する無効原因を有するので、その効力の及ぶ範囲を限定的に解釈すべきである旨主張する。しかし、右のような主張の当否はさておくとしても、本件商標は、その指定商品である飼料の品質等を普通に用いられる方法で表示した標章のみからなるものとは解せられないので、参加被告の右主張は前提を欠くものといわなければならない。

三  結論

以上によれば、参加被告は、本件登録商標に類似する商標をその指定商品について使用し、原告の本件商標権を侵害しているものと認められる。したがって、参加原告の本訴請求は理由がある。

よって参加原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 富岡英次 裁判官飯村敏明は転官のため署名押印できない。裁判長裁判官 元木伸)

〈以下省略〉

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